[view02]


 最近の話題の店は予想にもれず、混んでいた。
 お年寄りの夫婦から、子供を連れたあからさまな新婚夫婦。昼休みのサラリーマン風の男性たち。等々……
 運よく相席で座ることができたのはいいが、何故か先住者にさっきからジロジロに見られている。
 見られている気がする、じゃなくて、見られている
 相手は気づかれないように気をつけてやっているようだけれど、実際はバレバレだ。
 視線がちくちく痛くてたまらない。
「どうかしたんですか?」
 とりあえず笑いかけてみるが、ワタワタしていて返事が返事の体をなしていない。
「顔に何か付いてる?」
「あ、いや、別に」
「服装、変?」
「とくに可もなく不可もなく」
「未確認飛行物体でも見えた?」
「何故いきなりUFO話しになる?」
「じゃあ、一体何を見てる?」
「ええと、その、だな」
 いかにも切り出しにくそうに、金色の目を伏せながら、呟く。
「あんた…他の人と違わないか?」
「寝言なら、寝て言ってくれない?」
「だよなぁ…」
 そう言いながら目の前の男は項垂れる。少し長めの赤い髪がぱらりと顔に掛かった。
 それと同時に料理があたし達の前に置かれる。どうやら、同じモノを注文していたらしい。
 とはいえ、この酢豚が看板メニューなのだから被ってもおかしくはない。
「「いただきます」」
 取り敢えず食に対する礼儀はあるっぽい。
 あたしはさっそくパプリカや、竹の子が入っている酢豚に手をつける。と、
 ……
 …………!
 なっ……なんて事だ……
 パイナップルが入っている!
 しかも看板メニューのくせに、さして美味しくない!
「……パイナップル」
 男がげんなりとした声で呟く。
「豚肉を柔らかくする効果があるって言うけどねぇ」
それに釣られるようにあたしも呟く。
「無い、な」
「邪道、よね」
 男は頷く。
「味のバランスが崩れるしな」
「肉を軟らかくする方法なんて他にもあるしね」
「だが、この油通ししてあるカシューナッツは加点!」
「同意!」
 あたし達は目を合わせる。と、同時にビッと、親指を立てた。
 顔を合わせてから十数分
 気が合った。
 しばらく、男性と一緒に会話と食事をしていた時ふと気がついた。
 あれ?あたし財布持ってきたっけ?
 女性の手ぶらはNGとされているらしいが、あたしはその暗黙の了解を無視し、手ぶら最高主義を貫いている。
 椅子の背にかけてある見た目よりもずっとポケットが多いコートに後ろ手を回し、適当に探ってみる。
 ……無い
 しかも、携帯の感触も探り当てられない。
 あれー?
 あたしは食事の手をいったん止めて、コートを詳しく探り始める。
 拳銃と弾丸と煙玉とカメラとその他諸々はある。
 財布はない。
 携帯もない。
 あたしは、コートを背もたれに戻すと男性のほうに軽く身を乗り出す。
「ねえねえ、お兄さん。モノは相談なんだけどさ」
 あたしは、単刀直入に切り出す。
「お金貸してくれない?」
 男性は食事の手を止め一瞬、あたしではなくどこか遠い別のところを眺めるような目をする。そしてその後、あたしと同じように身を乗り出し、うな垂れた。
「俺もない」
あれー?


 あたしは計画を練り、赤毛に説明する。
 計画内容は簡単、シンプル。足りない技術は力でカバー。
「…ok?」
「ああ、」
 赤毛は神妙な顔つきで頷くとコップの中の水を飲み干す。
 あたしは椅子に深く座りなおすと、テーブルの上に視線を落とし、時を待つ。
 レジに待機する店員の数が1名となり、赤毛が自身とあたしの伝票を片手に立ち上がった。あたしもほぼ同時に立ち上がり、コートを着込む。
 赤毛が伝票を店員に渡し、自動ドアがあたしに道を明け渡す。店内に流れ込んできた冷たい外の空気があたしの頬を撫でる。
 今だ
「あのー、その後ろにあるものは何ですか?」
 あたしは、自動ドアの前に立ったまま店員の後ろを指差す。
 「え?」
店員の気が伝票から背後に移った次の瞬間、
あたしと赤毛は走り出す。
「え?」
 2度目の店員の声は遥か後ろで聞こえた。今、近くに聞こえるのはレストラン街にはびこる人々の喧騒だ。
 地理感があるあたしが前を、赤毛が後ろを走る。
 これでしばらくは、この辺をうろつけないなー
 赤毛がちゃんと付いて来ているかどうか気配で確認しつつ、人と人との間を縫うようにして走り抜いていく。
 しかし、意外とあきらめないな飲食店の店員。
 あたしは、チラリと後ろを振り向き、本人は自覚していないであろう店員の物凄い形相を拝見する。
 根拠なしに、諦める、諦め無いの確率はは半々だと思っていたけれども、追ってきたか。
「どうするんだ、追って来たぞ」
 まだまだ余裕そうな赤毛が話しかけてくる。
「フード被った方が良いよ」
 そういえば、うっかり言うの忘れてた。
「フード?コートのか?」
 聞き返しながらも被る。
「うん。此処って結構、隠し監視カメラあるし、最近治安が悪い日本の中でもそこそこ治安悪い方だしね」
「先に言ってほしかった」
 更にフードを目深に被りながら赤毛はため息と共に呟く。白い息がより赤毛の心情を表現しているようにも見える。
 通り過ぎざまに、歩きタバコをしている青年からタバコを奪い取り、公共灰皿に投げ入れる。
 さて、どうしようかな。
 いつもこういう時は、兄貴とかに丸投げしてるから考えるの苦手なんだよね。
「足止めするにしても、投げるものがなー…」
 飛び道具なら持っている。
 銃だけど。
 だめだよねー、治安が悪いとはいえ、銃刀取締法がまだちゃんとあるしねー
 つい最近に兄貴に新しい武器を自慢されたことを思い出す。
 確か、平たい棒状の投擲用のナイフで骨の部分破壊ぐらいなら結構な遠くからでもいけるとかなんとか…
 ベンチを踏み台にして木の枝に引っかかっていた風船を取り、近くで泣き喚いていた子供の手首に巻きつける。
 やっぱ、ナイフとか大きな音がしないってのはいいよね、街中でも殺れるし。
「……今そんなこと考えてる場合でもないか」
「諦める気配が無いんだが…」
「うーむ」
 どうしよ

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