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 兄貴を回収し、ロボットの操縦者をきざんでいるサーシャルの耳でも聞こえなさそうな場所まで来た後。
「よくも騙してくれたね! 兄さん!」
 真横の壁に拳を叩きつけながら満面の笑顔で罵る。灰色の壁が少しへこんだ。
 兄貴は不貞腐れて、顔をそっぽに向けたままだ。腕を組んでいるとこが何故かむかつく。
 どういう、経緯か知らないけれどもあれがグールの頭の中に入っていたということは兄貴がグールの死に直接関係しているということだ。
 しかも、独自に隠蔽しようとした、ということは死会からの隠し依頼でもないのだろう。
 つまり、
「勝手に、殺したね?」
 勝手に人を殺してはいけないと我が家ルールは、なにもあたしだけに適用されているわけではない。
 もちろん、兄貴にも適用されている。
 兄貴はそっぽを向いたまま返事をしない。
 つまり、この平たい棒手裏剣。
 グールを殺せば、研究解剖のために研究施設に送られる。
 解剖されれば、この棒手裏剣が見つけられる。
 発覚
 という流れなのだろう。
「この棒手裏剣」
 ピクリを兄貴が反応する。
「返してほしい?」
 ここまですでに状況が揃っているのだから、これを回収して、あたしの口を塞げば終了だろう。
「……俺の計画に乗って、お前にも十分利益があったはずだが?」
 「利益はあったね」
 うんうんと、あたしは頷く。
「けどね、兄さん」
 あたしはため息をつく。白い息が宙に溶けて消える。
「人は騙されるとね、怒るんだよ?」
「……条件は?」
 兄貴が大した抵抗せずに条件を聞いてくる。
 だが、多分あたしが怒っていることに関してはよくわかっていないだろう。
 騙した=悪いことをした=償わなければならない。きっとそんな感じの思考回路だ。
 兄貴に、感情はわからない。
「……ねえ、兄さん」
 実は条件は、もう決めてある。
「あのゆで卵、美味しかったと思わない?」
 


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