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「おっはようゴザイマース」
 満面の笑みで、吸血鬼が挨拶をしてくる。
 さっき彼を襲った黒いメタリックなマネキンをゴッキゴキに折り曲げて、昆虫の足チックなものを取り付けたような奴はいない。
 警戒しながら起き上がり、あたりを見回す。
「ダイじょうぶデスよー。多分、大気圏デ大体、燃え尽キテ、残りは今頃うちゅうデブリになってマスヨー」
 何が起こったのかはわからないが、俺が庇わなくても大丈夫だったんじゃないか……?
 ため息をついていると、吸血鬼が肩を叩いて来たあと、ある方向を指さす。
「ご褒美だってさー」
 蛇苺が、興味なさそうに言う。
 ある方向に顔を向けると、そこにはおびただしい量の血。そして、肉片。
 鉄の匂いとなま物の匂いに、むせ返りそうになる。
 ……と、思ったが。そうでもなかった。むしろ、美味しそうに見える、感じる。
 嗅覚が、嗜好が、変わっている。
 おそらく……味覚も
 散った肉片の一つに手を伸ばし、拾い上げる。
 口に含み、噛みしめる。
 今まで食べたものと、似ても似つかない味がした。ただ、
 美味しい
 それだけは、はっきりと感じた。
「早くしないと人来ちゃうかもよー」
「人気の無い所を選んだが、通らない可能性はゼロではないからな」
 えっ
「さあ、ジャンじゃん食べていイデスよー」
 ちょ
「ちょっと待ってくれ」
「?」
 まったく悪気のない顔で吸血鬼が首をかしげる
「流石に、一度は食いきれない」
 早くと言われても、俺の胃袋容量には限界というものが存在する。
「あー」
「なるほど」
「フーむ」
 3人が同時に納得する。
 一体何を納得しているんだろうか。
「理性があるからか」
 どこからか薄い布のようなものを取り出しながら、黒風が呟く。
「自分もウカツでしたー。仲間のグールはヒト一人なんテ、一瞬でペロリとタベテイマシたー」
「で、どうするの?」
「とりあえず、これに包んどけ」
 取り出した、薄い布の様な物を黒風が差し出してくる。かなり大きい。
「じゃあ、包んだら」
 俺は肉片をまとめながら、提案する。
 ここにいる訳にもいかないのだろう。
「俺の家に行きましょうか」
 


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