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あの時、 美味しいゆで卵を手にいれるため花柄の紙袋を頭から被り、銃で脅して作らせた、あの後。 殺しても良かったのだ。 ただ、気分的に殺す気分では無かった。 物理的証拠は監視カメラの映像を含めて何一つ残して無いし、やったこともやったことだ。腐敗しきった警察は捜査もしてくれないだろう。 だから非常階段へと逃げられた時も、大して気にしなかった。 その後、やけに大きな音がしたのをきっかけに見に行って、壊れた非常階段と潰れた頭を発見した時も、大して気にしなかった。 気にするべきだった。 あの時、せめてシートでもなんでもいいから、被せておくべきだったのだ。 すぷらったー その一言に尽きた。 いや、実際的には大してスプラッターでもなかった。頭を潰すだけなら見聞経験なら結構ある。 だが、その方法の大半は、大きな一方方向後からの力だ。多方向からの力ではない。 つまり、頭を握り潰しているところ何てモノは見たことが無い。 へー、本当に眼球がポンッって飛び出すんだー 「手でかいね。パイナップルぐらいの大きさはあるんじゃないの?」 状況を判断し、とりあえずあたしと兄貴は武器を取り出す。左右に散るほどの広さは、この路地裏にはない。 「その前に全身メタリックなところから突っ込むべきだと思うが」 しかし、状況が変わるの早いなー。 あたしたちが居なくなってから、戻って来るまで殆ど時間なんて無かった。なのに、その間にメタリックでガションガションいっている登場人物が1人増えて、グールは頭を潰されている。 「人を外見で判断しちゃいけない。って、父さんが言ってた」 「それはきっと、父さんじゃ無くて母さんだろうな。父さんはああ見えて自覚のある面食いだ」 グールの身体を呆気に取られているサーシャルの方に投げ飛ばしながら、ロボットがこちらを振り向く。グールを潰した手のような部分を中心に、少ない返り血で所々光っている。 人型っぽいけど人型じゃない。ところどころ形を崩して、バランスを取り易いような形状になっている。更に全身は鈍い黒に塗りつぶされて、用途が限られていることが一目瞭然、良くわかる。 「対・バケモノ用か」 「だね」 銃を構え、あたしは頭に銃弾を撃ち込む。 ロボットは顔を庇うような仕草をしながらも避けずにその場に止まる。 そして、あたしからの銃撃が終わると同時に、飛びかかって来た。 「オートマじゃないin 人。形状からして遠隔操作型だね」 あたしは断言をしながら、右斜め前に跳んで脇をすり抜けるように攻撃を避ける。急所を狙わず、様子見の攻撃みたいだ。が、こちらとしても、いきなり懐に飛び込むわけにはいかない。 無謀と勇敢は、ちょっと違う。 「そうか」 「どうする?」 あたしは、ロボットの『様子見』攻撃でクレーターの様に抉れたアスファルトを尻目に尋ねる。 「今回、殺すのは俺達の役目じゃないな」 壁に設置された室外機の上。そこに猫のように軽々と乗った兄貴がそう言って、肩を竦める。 次の瞬間 あたしの顔の横を無数の黒い塊が通り過ぎた。 ああ、なるほど ロボットが抵抗する間も無く、無数の黒く蠢く物体に包まれると、ふわりと浮き上がり、どんどん高度を上げていく。中で、何やらいろいろ抵抗しているようだが、よくわからない。 その姿は少しずつ小さくなっていき、やがて空の闇に紛れて見えなくなった。 見えなくなるとほぼ同時に、何処かで悲鳴が上がった。その悲鳴は音量を上げながらこちらに近づいて来る。 かなりの猛スピード。 そして、文字通りの七転八倒を行いつつ、土煙を上げながらのスライディングをかましながら、あたしたちの目の前に姿を現した。 「お帰りー」 あたしは、それを投げ下ろした、蠢く黒い物体に告げる 流動性を持った影の様な、黒い霞の様なモノは小さい4つの塊と1つの大きな塊に別れる。 4つの小さな塊は渦巻き、杭の形状をかたどると悲鳴の音源の四肢に勢いよく突き刺さった。 大きな塊の方はあたし達の見慣れたサーシャルの形へと戻っていく。 ただし、右腕はすこしモヤモヤしたままだ。 その右腕の一部に四肢を穿たれている男――恐らく、ロボットの操縦者――が叫ぶ。 「放せ!この悪魔が!」 あたしと兄貴は耳を塞ぎ、2人の唇を読む。 「君にとって、悪魔の定義はいったいナンデスカ?」 サーシャルの右腕が溶けるように黒い液状となり、刃を形成し、男の指をはねとばした。 「僕カラ見れば、吸血鬼トイウダケの理由で、害を成していないモノまで根絶やしにシヨウトシテイル君らの方が」 男の足首から下が飛ぶ。 「ヨッポド、悪魔の名に相応しい」 もうそろそろ、出血多量かショックで死にそうだ。 初めての下僕を傷つけられたことがよほどご立腹のサーシャルの横で、グールは再生を続けていた。 現在進行形で再生している部位は、頭がい骨の少しだけ被害を免れた部分だ。中身は海馬や前頭葉らへんだろうか 逆再生を見てるみたいで面白いなー、とか悲鳴五月蠅いなー思いながら、まじまじとグールの脳内を見つめているとふと、何かが目に付いた。 「……何これ?」 片耳から手を離し、グールの脳内にある血まみれの金属らしきそれを摘まんで引っ張る。 簡単に引き抜けた。きっと他の臓器とつながって無いからだ。 ということは、これは外部からの異物ということになる。まあ、金属だから当然か。 そして、それは黒い平たい棒だった。 ………………。 …………あっ |