プロローグ


ハンプティ・ダンプティ へいにすわった
ハンプティ・ダンプティ ころがりおちた
おうさまのおうまをみんな あつめても
おうさまのけらいをみんな あつめても
ハンプティを もとにはもどせない?




 夜の闇は、あなたが思っているより深く、冷たい。
(一人の男性が息を切らしながら、暗く、ひとけのない廊下を走る)


「最近治安が悪くなってきた」
「ねーねー、早くかえろー」
「そこのカッコいい、おにーさん!うちの店は表通りに面していて安心だし、可愛い子がいっぱいいるよ!」
「あー、すいません。始末書は明日には必ず…」
「お母さんー、迎えに来てー」


  そして、その闇はあなたが思っているよりも、とても身近に、すぐ近くに存在する。
(男性は非常口を殴るように開けると、勢い良く非常階段へと飛び出る)


「新聞に載らない殺人事件って最近多いよね」
「暗くなってきた」
「荒れてるよねー、なんか、全体的に」
「夜が来るよ」
「この前さー、なんか超常現象っぽいものにあってさー」
「まさか、警察を当てにするの?」


 だが、恐れてはいけない。
(階段を下りようとした瞬間、男性が体勢を崩し、転がり落ちる)


「この前、あの、ほら、何とが議員って奴、死んだんだって」
「明日は、教会に行かないとね」
「そっちは、駄目」
「俺らも、もう若くないんだし、さっさと帰るとしますか」
「あそこの工場、潰れて廃墟になっちゃったんだって」
「ほんとだよ!青い蝶々が…」


 それは、あなたと同じ、世界の一部なのだから
(男性が激突した踊り場の手すりが壊れ、男性の体が宙へと投げ出される)


「閉幕だ」
「始まるよ」


 今日も闇夜で悪魔は踊る。
(誰も、何も、通らない裏路地に、赤い華が咲き誇る)




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