第2章 「02:裏切」


 好調だ
 びっくりするぐらい好調だ。
 早和田株式会社と提携し、新しい事業を始めてからすべてが順調に回ってる。
 趣味にも似た副業にも専念できるようになったし、息子の学業も何とかなっている。
 今、何かをやれば全てが上手くいきそうな気さえしてくる。
 そう思っていた矢先、技術者の池家がただでさえ暗い顔を更に暗くして事務所に入って来た。
 俺の前を素通りして、席に座り、一回でほとんどの幸せを吹き飛ばすような溜息をこぼす。
 暗い、暗すぎる。
「どうした、そんな浮かない顔をして」
 俺は座る池家の横に立つと、明るく話しかけた。
「いえ、まあ、色々ありまして…」
 池家は苦笑いで話を濁すとさっき座ったばかりの席を立ち、部屋の外へと出て行った。
「……なんだ、あいつ?」
 俺が首をかしげてながら自分の席に戻った後、しばらくして、社員の一人が事務所の扉を勢いよく開けた。
「社長!…早和田株式会社が……倒産しました!」
「!」
 早和田株式会社の支払いはまだだが納品はとっくに終わっている。
 早和田株式会社との交渉、日程の調節、それどころか早和田株式会社を捜し出して来たのも池家自身だ。
 暗い池家の顔を思い出し慌てて家に向かう。
 管理人に鍵を借り、勢いよく扉を放たれた池家の家はもぬけの殻だった。

 会社創設時どころか中学時代からの友人だった池家のことはよく知っているつもりだった。
 しかし、こんなことをする奴だとは夢にも思わなかった。
 この結果が本意か不本意かは知らないが、ハッキリしている事が一つある。
 あいつは、オレ達を裏切った。

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